「本当のこと」がいえるのはルペンだけ
3日間の党大会を通じて、ルペン氏は何度も演壇に立ち、二時間ぶっ通しで演説することもありました。しかし、ジョークや身振り手振りを交えて聴衆を笑わせ、決して飽きさせることがありません。これが、彼のカリスマ性であり、才能なのでしょう。
会場に集まっていた党員の中では、年配者が比較的多かったのですが、「FNJ」(ナショナル・フロント・ジュニア)という一団は若者で構成され、会場整理、受付などを颯爽と仕切っていました。とはいえ、黒シャツやスキンヘッドなどといった「いかにも」な服装の者はほとんどおらず、大抵がこざっぱりした学生風です。
休み時間中には、なるべく多くの人に声をかけ、なぜ国民戦線に参加するに至ったのかを訊いてみました。すると、
「簡単だよ。我々フランス人の気持ちを代弁し、『本当のこと』を言ってくれるのはルペンしかいないんだ。フランスの未来や文化を守るためには反EU、反移民、反グローバリゼーションしかないのに、他の党は綺麗ごとばっかり言ってるからダメなんだよ」
という答えが返ってきました。
ヨーロッパがEUによって統合され、国境がなくなれば、移民がいま以上にフランスへ殺到することは間違いないでしょう。現在フランス国内には移民が450万人、不法移民が50万人いると言われていて、国民の10〜12人に1人が移民という状態だというのです。
「何百万という移民が押し寄せてくる恐怖感は、日本人には分からないかもしれない」と、私は以前にジリノフスキー氏(ロシア自由民主党党首)に言われたことがあります。
先ほどの青年によれば、国民戦線とルペン党首は、多くのフランス人が感じているその種の恐怖感を、綺麗ごとではなく「本当のこと」として語っているといいます。だから支持率が上がり、「隠れシンパ」も多いのだと…。
また、「移民に多額の社会保障をするならば、同じお金を使って移民の母国に援助を行い、移民にならずに済むようにしたほうが、お互いのために良い」、というのも彼らの持論です。それも尤もなことだと思います。
ルペン党首は、「第五共和国は私ひとりから」と語ったドゴール将軍のように、「自分ひとりでもやる」という気概を持って、実際に行動もしてきました。かつてアルジェリア左翼ゲリラに自宅を爆破され、命を狙われるなど、白刃の下を何度もくぐってきたのです。そのせいか、彼には凄味があり、高齢にもかかわらず、堂々としてエネルギッシュです。
翻って日本の政治家を見ていると、「アメリカ様」が怖くて、「本当のこと」がいえない人があまりに多すぎるのではないかと思います。例えばイラク攻撃の際、国民世論は8割がイラク攻撃反対でした。これこそが我々にとっての「本当のこと」です。
にもかかわらず、日本政府は「国連主義主義」という無難な主張を繰り返しつつ、ひとたびアメリカのイラク侵略が始まると、これを盲目的に支持してしまいました。
小泉首相はアメリカの新聞社とのインタビューに、「国内で反戦運動が盛り上がっている最中でのアメリカ支持です」と胸を張って答え、最大限に恩を売るという自己アピールに余念がありませんでした。己の政権存続のため「正しさ」を売り渡してしまったのです。
こうした情けない事態が続くと、日本でも「本当のこと」を言ってくれる政治家が台頭するかもしれません。
2003/05/19 木村
三浩
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